不動産を相続したとき、登記について気になる方が多いようです。登記なんて必要ないという声を聞くこともありますが、本当にそうなのでしょうか。また、自分で不動産の相続登記をすることはできるのでしょうか。ここではスムーズに手続きを行うために、不動産の相続登記についての解説をしていきます。
相続登記とは?登記はいつまで?
まずは相続登記の意味を確認しておきましょう。相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合、その不動産の登録名義を被相続人(亡くなった方)から相続人へ名義変更を行うことをいいます。つまり、被相続人名義から相続人名義へ登記申請することで、不動産の所有者が変わるのです。
この相続登記には期限はあるのでしょうか。実は法律上、相続登記に関する期限は決められていないので、登記せずに放置していても何ら罰則はありません。しかし、別の問題が発生する可能性があります。
例えば、相続権利が誰にあるのか登記によって確定しておかないと、将来相続人同士が揉めてしまうこともあります。また、遺産分割協議により、通常の法定相続分とは異なる相続分の不動産を相続したとき、相続登記をしていないと第三者に「この不動産は自分のものだ」と主張ができなくなります。つまり、金融機関などの第三者から、不動産を担保に融資を受けられなくなるのです。
相続登記(不動産の名義変更)には、こんなに書類が必要!?
相続登記をする際には、たくさんの書類が必要になります。
必要書類1 戸籍謄本等
まずは被相続人と相続人の戸籍謄本等を集めるところから始めます。誰が相続人になるのか調査する必要があるからです。戸籍で隠し子がいないことを証明しないと、相続登記はできません。役所で入手しましょう。
また、集める戸籍謄本等はひとつだけとは限りません。被相続人が生まれてから、亡くなるまでの全ての戸籍謄本等が必要です。もし被相続人が何回も引越しをしているなら、日本全国から集めます。生まれが明治や大正時代なら、その時代の戸籍謄本等も集めます。戸籍謄本等がひとつでも足りなければ、相続登記手続きはできません。
必要書類2 遺産分割協議書
戸籍謄本等が全て揃ったら、相続人全員で誰が不動産を相続するか話し合い、遺産分割協議書を作成します。この遺産分割協議書に相続する不動産を特定して記載します。不動産の住所だけでなく、所在地や家屋番号も必要です。法務省のブルーマップで調べるか、登記簿謄本を取得しましょう。
また遺産分割協議書は、誰が不動産を相続するか決める書類となるため、少しでも間違いがあれば無効となってしまう可能性があります。そうなれば相続登記は完了しないので、注意しましょう。遺産分割協議書が作成出来たら、相続人全員の署名と実印が必要になります。それに加えて、相続人全員に印鑑証明書も取得してもらいましょう。
必要書類3 固定資産評価証明書
次に固定資産評価証明書を都税事務所か市町村役場で入手します。登録免許税といわれる、相続登記する際に必要な納税金額を計算するために使う書類です。
必要書類4 登記申請書
最後に、相続登記に必要な登記申請書という書類を作成します。登記の種類によって内容が異なるので注意しましょう。作成後、今まで集めた書類とともに、法務局へ提出します。もし不備があれば、法務局から連絡が来るので、その際は書類の修正をきちんと行いましょう。相続登記が完了すると、登記識別情報(昔の権利証)がもらえます。また登記事項証明書(登記簿謄本)も発行してもらうことができ、ここできちんと名義が変更されているかどうかを確認できます。
相続登記をしないとどうなる?
相続登記をしなくても法的な罰則はありません。しかし、相続登記をしないことによるリスクがいくつかあります。ここで紹介していきましょう。
リスク1 他の相続人の持分が差し押えられたり、売却されたりするおそれ
相続登記をしていないと、他の相続人の債権者から、不動産を差し押さえられるおそれがあります。遺産分割が済むまでは、全ての相続人が相続分に応じて、不動産を共有している状態です。その後、遺産分割協議で決まった人がその不動産を取得します。このとき、相続登記を行わなければ、その不動産についての権利を第三者に主張できません。つまり、第三者から見れば、まだ遺産分割が済んでいない共有状態なのです。例えば、他の相続人が債務を返済しないケースがあったとします。他の相続人の債権者は、相続不動産についてのその相続人の持分を、差し押さえできることがあります。
それ以外にも、他の相続人が勝手に共有登記をして、共有持分を売却することもできます。見ず知らずの人と不動産を共有している状態になるのです。この状態を解消するためには、共有持分を買い取る必要が出てきます。これに要した費用は債務者であった相続人に求償できますが、差し押さえを受けるくらいですので、求償に応じるほどの資力はないと見ていいでしょう。
リスク2 不動産の売却・担保設定ができない
相続登記をしていないと不動産の売却・担保設定ができません。「売却したり、担保権を設定するときに相続登記をすればいい」という人もいますが、あまりおすすめできません。次の2つのおそれがあるからです。
- ・相続登記をするまでに、相続不動産を差し押さえられるおそれ
- ・相続登記をしようと思ったときには、権利関係が複雑化して、手続きが大変になっているおそれ(次で詳しく説明します。)
リスク3 権利関係が複雑化するおそれ
前述した「相続登記をしようと思ったときには、権利関係が複雑化して、手続きが大変になっているおそれ」について詳しく解説します。
被相続人の妻Aと姪Bが共同相続人である場合を見ていきましょう。遺産分割協議後、Aが不動産を取得したとします。Aが相続登記を行わずにいたところ、Bが亡くなり、Bの夫であるCがBの財産を相続します。その後Cも亡くなり、Cの甥姪D、E、F、G、H、I、J、KがCの財産を相続したとしましょう。
Aが相続不動産売却のため相続登記をする場合、被相続人の姪の夫の甥姪という、見ず知らずのD~K7人の同意が必要となってしまうのです。気のよい人たちであれば、すんなり同意をしてくれるかもしれません。しかし、お金に困っている場合は、同意に応じる代償としてのハンコ代や共有持分の買い取りを請求してくることもあります。
リスク4 次の世代に2倍の費用を負担させてしまうおそれ
相続登記しないことのメリットとして、登記費用の節約を挙げる人がいます。確かにその人の登記費用は節約できますが、その人の相続人の負担が大きくなってしまいます。例えば、不動産の所有者が亡くなり(一次相続)、相続人がその不動産について相続登記をしないまま亡くなった(二次相続)場合を見てみましょう。二次相続の相続人が相続登記をするとき、一次相続と二次相続の2回分の相続登記をする必要があります。つまり、費用が2倍になってしまうのです。登記費用節約のために相続登記をしないという人は、次の世代に自分が支払う登記費用を押し付けているという言い方もできるでしょう。
相続登記の申請は誰が行う?
相続登記の申請を司法書士に依頼する場合は、その司法書士が手続きを行います。また自分で申請する場合、相続人がひとりのときは、その人が申請をします。複数の相続人が相続不動産を共有している場合は、その中のひとりだけで申請することもできますし、全員で申請することもできます。ひとりだけで申請する場合は、他の相続人の委任状が必要です。全員で申請する場合、法務局に全員で行く必要はありません。申請書の申請人欄に記名押印するだけで大丈夫です。
全員で申請する場合は、全員に登記識別情報が通知されるというメリットがあります。この通知を受けていない場合、譲渡や担保権設定の手続きが煩雑になり、費用もかさみます。複数の相続人が相続不動産を共有している場合は、全員で申請することをおすすめします。
相続登記申請を自分で行う場合の流れ
相続登記申請を自分で行う場合は、以下の流れで進めます。
登記事項証明書の取得
登記事項証明書とは、登記記録に記録された事項を証明した書面のことです。相続登記自体に必要なものではありませんが、取得することをおすすめします。不動産の権利関係と地番を確認することが目的です。登記事項証明書によって、被相続人がその不動産の所有権を持っているかどうか、担保権が設定されているかどうかが確認できます。そもそも、被相続人がその不動産の所有権を持っていなければ、登記はもとより、相続そのものができません。
また登記申請書や遺産分割協議書には、普段住所として使っている住居表示ではなく、地番を記入します。この地番は登記事項証明書で確認すると正確に分かります。相続開始後、速やかに登記事項証明書を取得して確認すべきですが、取得していない場合は、遅くとも登記前までには確認しましょう。
登記申請書の作成
次に登記申請書を作成します。以下のリンクからダウンロードができます。記入用紙だけでなく、記入例も確認可能です。記入用紙と記入例は状況によって異なりますので、自分に合ったものを選んでください。(各記入用紙と記入例は、法務局のホームページにも掲載されています。)
- ・公正証書遺言がある場合
記入用紙
記入例 - ・自筆証書遺言がある場合
記入用紙
記入例 - ・遺産分割した場合
記入用紙
記入例 - ・遺産分割せず法定相続分通りに共有する場合
記入用紙
記入例 - ・数次相続がある場合
記入用紙
記入例
必要書類の準備
登記申請には登記申請書のほか、以下の書類の添付が必要です。遺言がある場合と遺言がない場合とで、必要な書類も異なります。注意しましょう。
遺言がない場合に必要な書類
- ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- ・被相続人の住民票の除票
- ・相続人全員の現在の戸籍謄本
- ・登記する不動産を取得する相続人の住民票
- ・最新年度の固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書
- ・遺産分割協議書(遺産分割をした場合)
- ・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割をした場合)
遺言がある場合に必要な書類
- ・被相続人の死亡した記載のある戸籍謄本または除籍謄本
- ・被相続人の住民票の除票
- ・登記する不動産を取得する相続人の現在の戸籍謄本
- ・登記する不動産を取得する相続人の住民票
- ・最新年度の固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書
- ・遺言書(自筆証書遺言等の場合は検認済みのもの)
提出書類の原本還付を受ける方法
相続手続きでは、登記以外にも原本が必要になることが多いです。原本還付を受けておきましょう。原本還付は原本と一緒にコピーを提出することで受けられます。コピーした書類の空いたスペースに「この写しの内容は原本と相違ありません」と書き、署名(または記名)押印をします。このとき申請書の押印と同じ印鑑を使うことが大切です。全てのコピーで同じことをするのは大変ですので、1枚だけに書いて、あとはそれぞれの書類の間に契印(割り印)をしていっても大丈夫です。
戸籍謄本の原本還付は、コピーだけでなく、相続関係説明図の提出でも受けられます。登記申請をオンラインで行う場合は、提出書類の原本の還付を受けたいかどうかに関わらず、相続関係説明図の提出が必須です。
申請
相続登記の申請は、その相続不動産を管轄する法務局で行います。全国の法務局とその管轄エリアは法務局ウェブサイトの「管轄のご案内」ページで確認できます。郵送、オンラインどちらでも申請可能です。オンラインで申請する場合、「登記・供託オンライン申請システム」のウェブサイトの「ソフトウェアのダウンロード」ページから「申請用総合ソフト」をダウンロードして利用しましょう。